ワコールから、『やさしい世界を、身に着ける。』をコンセプトとした商品グループ[Nature Couture(ナチュレクチュール)]が誕生しました。オーガニックコットンや和紙糸を用い、廃棄材料を抑えたシンプルなデザインのアイテムがそろいます。立ち上げに関わったプロジェクトチームの4名にインタビューしました。
ゼロからのスタートで環境に配慮した商品グループを立ち上げ
――「ナチュレクチュール」誕生のきっかけやコンセプトを教えてください。
石田 ワコール社内でサプライチェーンに関わる環境課題の解決に向けたプロジェクトが発足し、環境に配慮した商品開発担当としてこの4名が招集されました。会社の新たな取り組みで1年後の発売を目指して、環境にやさしく、自分にやさしい事をテーマに始まりました。商品コンセプトや素材について、会議を重ねては新しい課題が出て…のまさに千本ノックでしたね(笑)。コンセプトやペルソナ、イメージマップ、デザイン、サンプルを毎日のように作り変えて試行錯誤した末、「ナチュレクチュール」~やさしい世界を、身に着ける~が誕生しました。
高橋 ゼロからのスタートでしたが、企画の立ち上がりと同じ時期の2020年7月からレジ袋有料化が始まり、世の中が環境を意識し始めたタイミングでした。まずは世に出ているさまざまな商品・サービス・素材・環境課題について徹底的にリサーチして、知識を集めながら進めていきました。毎日世間の環境課題やサステナビリティに関する情報がアップデートされていくのが早かったですね。
石田 オーガニックというと「自然」「やさしい」イメージがありますが、「ナチュレクチュール」はモダンな雰囲気でつくりたいと考えました。自分たちが欲しくなるような、今っぽさも必要だなと。
桝野 まず、ターゲットイメージやどういう人に買ってほしいかというペルソナを考えました。ネーミングはプロジェクトメンバーそれぞれが複数のアイデアを出し合った結果、最終的に「ナチュレクチュール」に決定しました。質の良いもの、自分にとって快適なものを長く使い続けたいという消費者ニーズの高まりにこたえたいとの思いから、シンプルな中にしっかり手が加わった丁寧な作り(クチュール)で、1点ごとに考えた妥協のない材料・設計・着ごこちをネーミングにも込めています。
和紙糸と高級オーガニックコットンという自然由来の素材を新開発
石山 素材選びは、環境にやさしいというだけではなく、「自分にもやさしく」ということを重視。素材感や肌ざわりのよさを追求していきました。和紙糸と高級オーガニックコットンの2種を使っており、こちらが和紙糸からつくったキャミソールで、レースは再生ポリエステル糸を使用しています。
――とても和紙からできているとはわからない、しなやかでやわらかい手ざわりですね!
桝野 和紙糸をなんとか形にできないかなと模索しましたが、糸がきれてしまうので編むのがとても難しくて…。通常ならポリエステルを使って強度を出すところ、今回は綿とポリウレタンを使いました。和紙素材は肌ざわりがさらっとした質感が特徴で、吸放湿性がよく、抗菌防臭性があります。最近は和紙糸を使ったアウターを見かけますがそれは糸が太いんですよね。肌にふれるインナーということで、がさがさした触感にならないように、苦労しました。
石田 高級オーガニックコットンを使った商品(トップ画像)は、わたから探しました。オーガニックコットンは手を加えられない分、触感がかたいものも多いのですが、このコットンはしっとりしたなめらかさがあります。さらに編み方で工夫をしているので、均一な編み目により表面が美しく、ほどよく伸びがあることで、着ごこちのよさにつながっています。
高橋 こちらのブラレットの身生地には両面オーガニックコットン100%の生地を使っているんですよ。よりリラックスして着ていただくために着用したときに圧迫感を感じにくいようにアンダーの伸びをよくしたり、肌触りを考慮して縫い代が直接肌にあたらないように袋縫いにしたり、細かなところもいろいろ工夫しています。デザインの上質感と肌あたりが成り立つように検討しました。キャミソールにしても、ネック始末の縫い代が肌にあたらないように…と、始末の方法も時間をかけて追及しました。考え抜いた仕様が、いざつくるとおしゃれではなかったり、肌あたりはいいけど縫製がすごく難関だったり…など、すべてクリアするのがハードでした。
石田 このブラレットのパッドは、実は「ワコール[GOCOCi(ゴコチ)]」と同じものを使っています。従来からある優秀なパッドで、取り外すこともできますし、着たらとてもラク。思っていた以上に軽やかな着用感で「これはいい!」となったのでぜひお試しいただきたいですね。
石山 オーガニックコットン100%のアイテムはポリウレタンが入っていないので、ストレッチ度合いは少ないですが、そのぶん着ごこちを考慮してパターンで工夫しています。長袖は、脇の部分にマチをとることで手を上げても動かしやすくなっています。同様に、ボーイレングスショーツも、後ろ身ごろはからだの動きに合わせて生地の伸びが得られるように地の目の向きを変えています。従来と違った方法で前後の身ごろを合わせることによって着用感をアップしました。
ボタニカルダイと無染色の自然な色味が魅力
――染色について教えてください。
石田 自然を生かしたボタニカルダイ(植物染料に化学染料を配合させた染色)と水の使用量が少ない染色工程の無染色のものがあります。例えばグリーンやイエローはオリーブから、ピンクはバラから。オリーブは平和の象徴、バラは美・希望の花言葉のイメージのように、この商品グループのイメージともマッチします。アイボリーが無染色です。
桝野 自然由来なので出せない色味もありますが、イエローはこのようなはっきりした色味が出せました。こちらは、部屋着としておすすめの和紙素材のニットトップとニットボトムです。
――どのような方に手に取っていただきたい商品ですか?
石山 ゆくゆくはインナーウェアの選択肢として、サステナブルを意識していない方にも、たまたま買ったら「環境に配慮された商品だったんだ」と感じていただけるように、浸透していけばうれしいですね。地球環境について考えつつ、着ごこちやシルエットまでこだわったインナーはなかなかないと思います。
高橋 環境に配慮した生地を使うだけではなく、設計・製造・廃棄材料の削減においても一貫して環境への配慮を意識しています。製造段階で出る廃棄材料を回収し、次シーズン以降の製品材料としてリサイクルする“廃棄材料リサイクルシステム”の確立を目指していて、ロゴもそのイメージで作成しました。
石田 どんどん買い替えるのではなく、数は少なくてもいいものを持ちたいという1人のワードローブを考えたアイテムがそろっています。若い世代の方も環境課題についての意識は高いので、ワコールを知らなくても、環境にも配慮した肌あたりのいい商品があることに気づいていただけると、うれしいですね。私たちもこの商品開発で環境に配慮したものづくりに詳しくなり、環境への影響を考えるようになりました、コンセプトにもある小さな一歩だけど、正しい一歩を考えるきっかけにもなる商品を手にしてみてほしいです。
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石田里代子(いしだ・りよこ)
第1ブランドグループ ワコールブランド商品企画部 商品設計課 課長
ワコール入社後、ウイングブランド事業本部で主にボトム・ニットの企画開発を担当。
2015年7月よりワコールブランドでニット・ショーツのチーフデザイナー・他リーダーを経て2021年4月より現職。
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桝野有希(ますの・ゆき)
第1ブランドグループ ワコールブランド商品企画部 商品開発課
ワコール入社後、マタニティインナーのデザイナー、パタンナーを経験後、ウイングブランドのボトム、ショーツのチーフデザイナーを経て2019年より商品開発課チーフデザイナー。
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石山麻子(いしやま・あさこ)
第1ブランドグループ ワコールブランド商品企画部 商品企画一課
2001年入社。ニットパタンナー、ニット・ショーツ・GOCOCIのチーフデザイナーを経て、現在ナチュレクチュールチーフデザイナー。
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高橋知子(たかはし・ともこ)
第1ブランドグループ ワコールブランド商品企画部 商品開発課
2011年入社。ランジェリーやブラジャーのパタンナー、ニットのチーフデザイナー等、様々なアイテムで経験を積み、現在は商品開発を担当。
撮影/合田慎二