ランジェリーの中でも基幹アイテムであるブラジャーには、最新のイノベーションの波が顕著にあらわれています。快適でありながら、あくまで美しく。機能的でありながら感情的に訴えるものを――。
2020パリ国際ランジェリー展で見た新しい動きをご紹介します。
リバーレースのモールドブラ
ランジェリー全体のシームレス化や合理化の流れの中で、ブラジャーも一枚の生地を熱加工によって立体的にしたモールドカップや、通気性のあるダブルラッセルメッシュ素材を使ったスペイサーブラ、あるいは3Dブラといわれるタイプが増えています。従来の接ぎによってつくられるブラジャーは、レースが効果的に使われていましたが、シームレスの場合はシンプルでモダンなデザインが特徴で、レース好きの人にとってはどこかもの足りない思いがしていたことも事実でしょう。
今回、レースの美しさが存分に味わえる画期的なブラとして注目されたのが、フランスの老舗ブランド「EMPREINTE(アンプラント)」から発表されたリバーレースのモールドブラです。オートクチュールの物づくりで知られるフランスのカレーという町のリバーレースメーカー「ソフィアレット」との協業で、数年にわたって開発を進めてきたもので、繊細な素材であるリバーレース一枚(裏打ちなし)で立体的なカップが実現しました。伸縮性のないリジットレースだけに、カップサイズ(C~Gカップ)に合わせたモールド加工を行うことに苦労があったようです。
また、リジットのブラは店頭でのフィッティングにも技術を要し、同ブランドのモットーである対面販売による顧客育成にも貢献するものとしています。
ますます多様化が進むブラジャー
グローバルなブラジャーの流れを見ると、ノンワイヤーやソフトカップなど、快適性を追求したリラックスの基調は続いています。バストを広くカバーするような安定感のある縦長のトライアングル型、Vゾーンの深いプランジング型などは引き続き人気ですが、ソフトでワイヤーも入らないブラレット型もあるし、バストを適度に補整するプッシュアップ型もあるという具合で、選択肢は広くなっています。
リラックス傾向の一方で、よりバストの補整機能を重視したものも見直されており、同じデザインのグループの中でも自分に合うタイプが選べるように構成されています。レース効果が存分に発揮されるように工夫されたものも増えました。
さらに、「あらゆる女性のために」という意識はさらに浸透し、サイズ展開が一層充実していることに加え、乳がん術後のためのブラジャーなど、女性の心身に深く影響するメディカルな要素も目につくようになっているのが最近の傾向といえます。
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武田尚子(ジャーナリスト)
インナーウェア専門雑誌の記者を経て、1988年にフリーランスに。以来、ファッション・ライフスタイルトータルの視点から、国内外のランジェリーの動きを見続けている。著書に『鴨居羊子とその時代・下着を変えた女』(平凡社)など。
「パリ国際ランジェリー展」など年2回の海外展示会取材は、既に連続30年以上となる。現在、ライフワークとなる新たな計画を進行中。 http://blog.apparel-web.com/theme/trend/author/inner