景気とファッションと現代美術。
景気とファッションには、深い関係があるといわれています。好景気の時には気分も開放的になり、攻撃的で派手な色や柄が流行しますが、景気が悪ければ人々は保守的になり、長く着られそうな地味めの服が選ばれる。ある意味、当然の現象かもしれません。そんなことを考えながら今年の春夏の傾向を改めて見てみると、やたらと派手な柄が目につくではありませんか。これは好景気への願望の表れでしょうか?
とくに勢いがあるのが、さまざまな幾何学柄を組み合わせた「オプ・アート柄」。オプ・アートとはオプティカル・アート(視覚アート)の略で、経済成長がめざましかった1960年代にブームとなった絵画作品のジャンルです。目の錯覚を起こさせる視覚効果(目くらまし効果)が特長ですから、柄+柄のミックスでスタイルをよく見せるなんてことも夢じゃない。どんな風に変身できるか、いろいろ試着してみたくなります。
根強い人気のストライプも、今シーズンは縦・横・斜めに構成したりジグザグになっていたりと、大胆な変化球パターンが多いですね。ストライプは現代美術にもよく使われるモチーフですが、私は先日、六本木のギャラリー「WAKO WORKS OF ART」で、デジタル時代のオプ・アートというべきビビッドなストライプを目撃しました。現代絵画の巨匠といわれるゲルハルト・リヒター(81才)の新作です。
ストライプの配色はさまざまでしたが、どの作品もとてもファッショナブルで、動いているようなインパクトがありました。見ているだけでめまいを起こしそうになりますが、これだけの吸引力をもつ作品に出会うと嬉しくなりますね。ギャラリーは大盛況で、この場を離れ難いという雰囲気を漂わせた若者があふれていました。若い世代に人気のある巨匠って、それだけでお洒落です。
ランジェリーのイリュージョン。
リヒターのストライプ作品は、抽象画に複雑なデジタル加工を繰り返し、プリントしたものだそう。もとの絵も本人の有名な作品ですから、何だかとても贅沢だし、ただならぬ深みがあることは確か。昨年秋、ロンドンで行われた競売で、エリック・クラプトンが出品したリヒターの抽象画は、生存する画家としては史上最高額の約26億9千万円で落札されたとか。新作のストライプも「世界一高価なストライプ」といえそうです。
個人的にはブルーグリーン系が最も美しく見えたのですが、あとから写真を見て理由に気づきました。この色調は、春夏のランジェリーコレクションの中でも、忘れることができなかった1枚を思わせるトーンだったのです。そう、それは孔雀ランジェリーと呼びたいSTUDIO FIVEのキャミソール。黒とピーコックグリーンの組みあわせが鮮やかな逸品です。アニマル柄とも違うゴージャス感、飛翔感は孔雀ならではですね。
ただし、派手な羽を誇示して異性を誘う「ピーコック」は孔雀のオス。地味な色のメスは「ピーヘン」という情けない名前で呼ばれているはずです。オプ・アートが流行した当時、ピーコック・レボリューションというデュポン社のプロモーションがあったそうですが、これは「孔雀を見習って、男も美しく着飾ろう」という男のファッション革命。ダークスーツの男性に、ネクタイとシャツをカラフルにしようと啓蒙したのです。
ネクタイとシャツだけが派手な男性を今も見かけますが、ピーコック革命の成果なのでしょうか。女性が孔雀ランジェリーをまとって威嚇すれば、保守的な男性をもっともっとお洒落にすることができるかもしれませんね。孔雀界とは異なり、人間界のお洒落はいつだって女性先行。この春、オプ・アートな目くらましドレスをぱっと脱ぐと孔雀ランジェリーが羽を広げるなんて、まさに今の時代が求めているイリュージョンではないでしょうか。